中国でAI生成ドラマが地上波で放送された、というニュースが話題になっています。動画生成AI研究所の所長をしている原田です。日々AI映像技術を追いかけていますが、地上波というマスメディアの土俵にAI生成コンテンツが乗った事例は、僕の観測範囲でもかなり大きな出来事です。
「中国がすごい」で終わる話ではなく、この動きが1〜2年後にイベント映像の案件にどう波及するか、今のうちに何を準備しておけば波に乗れるかを、具体的に整理します。
この記事の要点
- 中国では、AIで生成した映像作品が地上波で放送される段階まで来ている
- 企画・演出・編集の判断は、いまも人が握っている
- 準備①:AIで作れる範囲と人が作るべき範囲を、社内で言語化しておく
- 準備②:AI活用は「安くする話」ではなく「選択肢を増やす話」として設計する
- イベント映像の現場でも、1〜2年のうちに同じ相談が増える可能性が高い
中国のAI生成ドラマ地上波放送、何が起きたのか

まず事実関係を整理します。中央日報が報じた内容によると、中国ではAI映像制作技術を使ったドラマが地上波で放送されるところまで進んでいます。これまでAI生成映像は「YouTubeの実験的なコンテンツ」「SNSで話題になる短尺動画」という位置づけが強かった。それが、地上波という最も審査基準が厳しく、視聴者の目も肥えているメディアに乗ったという点が、研究者としてはかなり注目しています。
なぜこれが重要かというと、地上波に乗るということは「クオリティが実用レベルに達した」という一つの社会的な証明になるからです。実験段階のツールが「本番で使える道具」に変わった瞬間、業界の空気は一気に変わります。僕はこれまでも、AI映像技術がある閾値を超えた瞬間に業界の反応が変わる場面を何度か見てきました。今回もその転換点の一つだと感じています。
ただ、ここで大事なのは「じゃあイベント映像もAIだけで作れる時代が来た」と早合点しないことです。地上波ドラマは、脚本があり、演出方針があり、編集の意図があります。AIが担っているのは主に映像生成の部分であって、企画・演出・編集判断は依然として人間が握っています。この構造を理解しておくかどうかで、次の準備の質が変わってきます。
イベント制作会社が今のうちに準備すべき2つのこと
中国の事例を「対岸の火事」で終わらせず、自社の案件にどう落とし込むか。僕が考える準備は2つあります。
準備①:AIで作れる範囲と、人が作るべき範囲の線引きを社内で言語化する
地上波にAI生成映像が乗った今、クライアントから「AIで安くできるんじゃないですか」という相談が増えることは容易に想像できます。このとき、営業担当が回答に詰まると信頼を失いかねません。
具体的にやるべきは、自社が受注する映像の種類を一覧化し、それぞれに「AI活用が向く」「人の手が必須」のタグをつける作業です。
例えば、 – 周年イベントのブランドムービー、企業の理念を伝える映像 → 人が作るべき(企業文化・価値観が問われるため) – 社内イベントのオープニング映像、SNS告知用の短尺動画 → AIとプロの組み合わせが有効(スピードと量産が求められるため)
この線引きができていると、クライアントから「AIで安くなりますよね」と聞かれたときに、「この部分はAIを使ってスピードとコストを抑えられますが、御社のブランドを背負う映像はしっかり作り込むべきです」と即答できます。これができるかどうかが、今後の提案の質を分けます。
準備②:AI活用の提案を「金額を下げる話」ではなく「選択肢を増やす話」として設計する
このニュースを見たクライアントは「安くなる」という期待を持ちがちです。しかし、ここで「安くできます」だけを売り文句にすると、価格競争に巻き込まれるだけで終わります。
提案トークの例を挙げます。
「これまで予算の都合でオープニング映像を諦めていた企業さまでも、AIを活用したテンプレート型の制作であれば、1本5万円からご用意できます。ただしこれは静止画ベースの最低限の構成になりますので、そこから作り込みたい場合は通常の制作でグレードアップも可能です」
このトークの肝は、「安さ」を主役にせず「今まで映像を持てなかった企業にも届けられる」という文脈で語っている点です。金額だけを押し出すと、クライアントは「じゃあもっと安く」と際限なく値切ってきます。しかし「体験してもらうための入口」として設計すると、翌年以降の予算拡大につながる話に変わります。
会場が暗転してオープニング映像が流れた瞬間、参加者の空気が変わる瞬間があります。あの体験を一度味わった企業は、「来年はエンディングも」「表彰式でも映像を使いたい」と予算を広げていく傾向があります。これはAIの手柄ではなく、映像そのものの力です。AIはその体験を届けるための手段にすぎません。
実際の事例はこちら:EasyEaseの制作実績をご覧いただくと、どのくらいの規模感でイベント映像を作っているかイメージしやすいと思います。
【AIをイベント案件に取り入れたいイベント会社さまへ】
「どこまでAIで作れて、どこからは人がやるべきか」——実際に検証した内容ベースでお話しします。
御社案件での使いどころを一緒に整理するところからで構いません。
クライアントへの提案で使えるチェックリスト
準備①②を踏まえて、実際にクライアントへ提案する際に使えるチェックリストを整理しておきます。次の商談で試してみてください。
事前確認チェックリスト – この映像は「企業文化・ブランドを背負う映像」か、「スピード・量産が求められる映像」か – クライアントは映像を使った経験があるか、初めてか(初めてなら”体験してもらう”設計を優先) – 予算のハードルがネックになっているなら、テンプレート型(1本5万円〜)の入口提案が可能か – 静止画ベースの最小構成で十分か、動きのある作り込みが必要か(誇大な期待を持たせない) – 今回が単発の案件か、来年以降の継続案件につながる可能性があるか
このチェックリストは、商談の場でそのまま使えます。特に「予算のハードルがネックか」「単発か継続案件につながるか」の2点を先に確認しておくと、テンプレート型の入口提案をするか、通常制作を提案するかの判断が早くなります。

制作依頼時に共有してもらう情報を整理しておく
AI活用の話とは別に、実制作の場面で準備しておくべきことも触れておきます。イベント本番用の映像は、撮影が発生するものと、クライアント支給の素材を組み立てるものとで、準備すべき内容が異なります。
撮影が発生する案件(当日のオープニングや表彰式の映像など)では、必要になるのは香盤・進行表・登壇者情報・会場情報・撮影許可といった”段取りの情報”です。当日誰をどこで何時に撮るかが事前に固まっていないと、撮り直しがきかないため、情報は早めに固めてもらうよう依頼しておくのが得策です。
一方、ロゴ・写真・資料・原稿・BGM指定・受賞者リストといった”素材”は、編集の工程で使うものです。素材の到着が多少前後しても、編集側で調整できる範囲であることがほとんどです。この違いを事前にクライアントへ伝えておくと、「いつまでに何を用意すればいいか」の認識がすり合い、進行がスムーズになります。
商談の段階で「撮影に必要な情報」と「編集に使う素材」を分けて説明できると、クライアント側も準備の優先順位をつけやすくなり、結果として制作会社への信頼にもつながります。
まとめ:地上波放送は「準備を始める合図」
今回のニュースは、単なる技術トピックではなく、「AI映像がマスメディアの土俵で通用するレベルに達した」という一つの節目だと僕は考えています。この波は遅かれ早かれ、イベント映像の現場にも波及してきます。
大事なのは、この波に乗り遅れないことよりも、波が来たときに慌てないための準備を今のうちに済ませておくことです。AIで作れる範囲と人が作るべき範囲の線引き、そして金額を下げる話ではなく選択肢を増やす話としての提案設計。この2つが揃っていれば、AI活用の波はむしろ自社の追い風になります。
僕自身、日々AI映像技術を観測している立場として、この技術は「映像制作を奪うもの」ではなく「映像制作を届けるための手段」だと感じています。イベント制作会社の皆さんが、この手段をうまく使いこなして、これまで映像を諦めていたクライアントに新しい体験を届けられるよう、これからも現場で使える情報を発信していきます。
【株式会社EasyEaseについて】
イベント会社の映像パートナー。OPムービー・モーショングラフィックス・イベント映像制作を、御社案件の裏方として担当します。映像制作全般に対応。広告代理店・制作会社向け自社サービス「CUROCO」も運営中。
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