「AIツールで映像修正が速くなったのはいいけど、クライアントからの追加依頼が止まらなくなった」。これは動画生成AI研究所として、イベント制作会社の方からよくいただく相談です。笑い事ではなく、経営に直結する課題だと僕は考えています。今日はこのテーマを、現場目線で具体的なところまで詰めていきます。
AIによる映像修正の高速化は諸刃の剣になっている
これまでの修正作業は、たとえばオープニングムービーの一部を差し替えるだけでも、素材の再編集、レンダリング、書き出しと、それなりに時間がかかる作業でした。だからこそ「修正は納品前に1〜2回まで」という運用が、業界内でなんとなく成立していたんです。
ところが画像生成や動画編集ツールの領域でAIツールの精度が上がったことで、この前提が崩れてきています。テキストで指示を出すだけでレイアウト案が複数出てきたり、静止画ベースの構成なら差し替えがその場で完結したりする。制作側からすれば「助かる」機能なんですが、クライアント側からすると「じゃあこれも直せますよね」という発想にどうしてもつながりやすい。
僕はこれを「修正コストの体感的ゼロ化」と呼んでいます。実際のコストはゼロじゃないのに、クライアントの体感としてはゼロに近づいてしまう現象です。ここにきちんと線を引かないと、イベント会社の利益率はじわじわ削られていきます。

実際に僕らが関わった案件でも、似た構図がありました。イベント告知チラシを当日中に仕上げて印刷まで持っていく案件で、AIツールを使ってレイアウト案を作り、表面はキャンペーン訴求に寄せて、裏面は情報量を削って視認性を優先する調整をしたことがあります。この「表裏のバランス調整」を当日中に何往復もできたのは、AIツールがあったからこそでした。従来の手作業だけの調整だったら、当日中の印刷入稿には間に合わなかったと思います。
つまりAIツールは「対応できる幅」を広げてくれます。でもその広がった幅を全部クライアントに無償開放してしまうと、今度は制作側が疲弊する。ここから、その線引きをどう設計するかを具体的に見ていきます。
クライアントの追加依頼、3つのパターンに分けて考える
追加依頼と一口に言っても、性質がまったく違うものが混ざっています。大きく3つのパターンに分かれます。
パターン①:仕様変更型(最初の要件定義が曖昧だった)
「思っていたのと違った」というタイプの依頼です。これは要件定義の詰めが甘かった可能性があるので、1回目の修正としては無償対応が妥当だと僕は考えています。
ただし、ここで重要なのが「無償対応の範囲を最初から明示しておく」ことです。見積書や発注書に、こんな一文を入れておくと後々のトラブルを防げます。
> 「初稿提出後の修正は2回まで無償対応とします。3回目以降の修正、および構成・尺・使用素材の大幅な変更を伴う修正については、別途お見積りとなります」
これを最初に提示しておくだけで、クライアント側も「無限に直せるわけではない」と理解した状態で発注してくれます。
パターン②:追加要望型(良くなったからもっと良くしたい)
修正した映像を見て「思ったより良かったから、ここも変えられますか」という依頼です。悪気はないんです。むしろ映像の価値を感じてくれている証拠でもあります。
ただ、これを無償で受け続けると、案件の採算が崩れます。この手の依頼は「小さな追加を積み重ねる」形で来ることが多く、ひとつひとつは「ちょっとしたお願い」でも、5個溜まれば1本分の工数になっている、というケースがよくあります。
ここでのセリフ例はこうです。
> 「クオリティを評価いただけて嬉しいです。今回の追加分は当初の見積り範囲を超えるので、追加分だけ簡易お見積りをお出ししますね。〇〇円程度で、納期は本日中の対応であれば追加2営業日いただきます」
ポイントは「褒め言葉を否定しない」ことと「金額と納期をセットで即答する」ことです。ここで曖昧に「検討します」と言うと、なし崩し的に無償対応になってしまいます。
パターン③:緊急差し替え型(当日・直前の内容変更)
イベント本番の直前、あるいは当日に「登壇者が変わった」「協賛企業のロゴを差し替えたい」といった依頼です。これはクライアントの事情によるものなので、追加料金の対象として扱って問題ありません。
AIツールを使った修正フローが整っていれば、この「緊急対応」自体をイベント会社の付加価値として売ることができます。「当日でも対応できる体制があります」というのは、他社との差別化ポイントになります。
追加依頼の線引きを、契約前に伝える3つのタイミング
この線引きを実際にどのタイミングで、どう伝えるか。僕が現場のイベント会社さんにアドバイスするときは、必ずこの3つのタイミングを押さえるように伝えています。
タイミング①:見積り提示時
見積書の中に、修正回数の上限を明記します。先ほどのパターン①で紹介した文言に加えて、こんな一文も有効です。
> 「AIツールを活用した迅速な修正対応が可能です。ただし高品質な作り込みが必要な箇所(ブランドムービー・企業PR映像等)については、AIでの対応範囲外となり別途制作期間をいただきます」
これは単なる予防線ではなく、クライアントに「AIで何でもできるわけではない」という正しい理解を持ってもらうための一文でもあります。AIが向いているのは告知映像やSNS用の短尺動画、イベント演出用のオープニングムービーのような、スピードと量産が求められる領域です。企業の文化やブランドが問われる映像は、やはり人の手でじっくり作り込むべきものです。この使い分けを最初に伝えておくと、後から「AIなんだから安くて速いはず」という誤解によるトラブルを防げます。
タイミング②:初稿納品時
初稿を送るときのメッセージに、修正の残り回数を明記します。
> 「初稿をお送りします。ご確認のうえ修正点があればまとめてご連絡ください。無償修正は残り2回です」
「まとめてご連絡ください」がポイントです。修正依頼が小分けに何回も来ると、そのたびに作業を止めて再開するコストが発生します。まとめて出してもらうことで、対応効率が上がります。
タイミング③:追加依頼が来た瞬間
これが一番大事なタイミングです。追加依頼が来た瞬間に、その場で「これは無償範囲か、追加見積りが必要か」を判断して即答する。ここで即答できるかどうかが、イベント会社としての信頼度に直結します。
判断が曖昧なまま「一度持ち帰ります」と言ってしまうと、クライアントは「無償でやってもらえるかも」という期待を持ったまま待つことになります。結果、追加見積りを出したときに「え、有償だったんですか」という不満につながりやすい。
即答するための準備として、社内で「無償対応の基準表」を作っておくことをおすすめします。
| 依頼内容 | 対応区分 | |—|—| | 誤字脱字・色味の微調整 | 無償(何回でも) | | テキスト差し替え(1箇所) | 無償(2回まで) | | レイアウト構成の変更 | 有償 | | 尺の変更(±10秒以内) | 無償(1回まで) | | 尺の変更(それ以上) | 有償 | | 登壇者・ロゴ等の当日差し替え | 有償(緊急対応費込み) |
この表があるだけで、現場での判断スピードが大幅に上がります。

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AIツールでの修正対応、低価格パッケージと作り込みは別物と伝える
もうひとつ、伝えておきたい大事な線引きがあります。AIツールやテンプレートを使った低価格帯の映像制作と、しっかり作り込む映像制作は、別物として扱う必要があるということです。
たとえばオープニングムービーのテンプレートパッケージは、1本あたりの価格を抑えて提供できる仕組みがあります。これは静止画ベースの最低限の構成で、フォームに入力した内容に沿って制作するタイプのものです。安く提供できる理由は、毎回ゼロから個別設計せず、型を決めた範囲の中で制作しているからです。
ここで重要なのは、この価格帯の映像に対して「動画素材を使った作り込みまで」を追加依頼として求められた場合、それは明確に別料金・別グレードの話だとクライアントに伝えることです。曖昧にすると、低価格パッケージの採算が根本から崩れます。
逆に、この線引きを最初に伝えておけば、クライアントにとっても「まずは低価格で映像を試してみて、良ければ次はグレードアップする」という選択肢が見えるようになります。映像を初めて使うクライアントほど、最初の一本を体験したあとに「来年はもっと予算をかけたい」と言ってくれることは少なくありません。イベント会社にとって、単発の案件ではなく来年・再来年の案件規模を育てる話につながっていきます。
実際の事例はこちら:EasyEaseの制作実績もあわせてご覧ください。
まとめ:線引きは「断る技術」ではなく「信頼を守る技術」
ここまで、AIツールを使った修正対応における追加依頼への対応をいろいろな角度から見てきました。僕が一番伝えたいのは、この線引きは「クライアントを断るための技術」じゃなくて「長期的な信頼関係を守るための技術」だということです。
追加依頼を全部無償で受けていたら、確かに一時的にはクライアントに喜ばれるかもしれません。でも採算が崩れた状態では、次の案件に十分な体制を組めなくなります。逆に、最初から基準を明確にして誠実に伝えておけば、クライアントは「ちゃんとしている会社」として信頼してくれます。
僕はこれまで多くのAIツールの進化を見てきましたが、技術がどれだけ速くなっても、この「線引きを決めて、誠実に伝える」という部分だけは人間の仕事のままだと感じています。ツールに任せられるのは作業のスピードであって、クライアントとの関係設計ではありません。
今日紹介した基準表やセリフ例を、ぜひ自社の見積りフォーマットに組み込んでみてください。次の案件から、追加依頼への対応がスムーズになるはずです。
【株式会社EasyEaseについて】
イベント会社の映像パートナー。企業イベントの撮影・編集・ライブ配信・OPムービー制作を、 御社案件の一部として裏方で担当します。テンプレートを活用して工数を抑えることで、OP映像をもっと多くの現場で使ってもらえる価格にしています。 広告代理店・制作会社向け自社サービス「CUROCO」も運営中。
サービスの詳細はサービス一覧をご覧ください。
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